生成AI(LLM)の爆発的な普及に伴い、世界中のデータセンターでは「電力消費の急増」と「高価なAIアクセラレータ(GPU)への依存」が深刻な経営課題となっています。AIモデルの学習から日常的な推論ワークロードへのシフトが進む中、莫大な電気代と特殊な冷却設備の導入コストが企業のDX推進を圧迫しています。
こうした構造的課題を打ち破るべく、富士通がNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援を受けて開発を進めているのが、次世代の国産Armプロセッサ「FUJITSU-MONAKA(モナカ)」です。
世界最高峰の計算効率を誇るスーパーコンピュータ「富岳(Fugaku)」に搭載された「A64FX」プロセッサのDNAを受け継ぎ、最先端の2nm GAAFETプロセスと3Dチップレット技術を結集。標準的な空冷設備のまま驚異的な電力性能比(ワットパフォーマンス)を実現し、x86サーバー市場や高コストなAI推論環境に革命を起こそうとしています。
本記事では、MONAKAの革新的なアーキテクチャからAI推論における優位性、そして日本の「ソブリンAI(主権AI)」確立に向けた戦略的意義までを徹底解説します。
FUJITSU-MONAKAとは?「富岳」のDNAを受け継ぐ次世代国産CPU
スパコン「富岳」(A64FX)からの進化とNEDO支援国家プロジェクト
富士通は、理化学研究所とともに開発したスーパーコンピュータ「富岳」の心臓部「A64FX」において、Arm命令セットを採用しながら世界トップクラスの計算能力と省エネ性能を実証しました。
MONAKAは、このA64FXで培った超高効率なマイクロアーキテクチャ設計とメモリ制御技術をベースに、科学技術計算(HPC)特化型から「汎用クラウドおよびデータセンター向け」へと大幅に拡張・進化させたプロセッサです。NEDOの「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」の採択を受け、日本の半導体産業およびAIインフラの自立を担う国家級プロジェクトとして開発が進められています。
x86の寡占と高消費電力GPUに一石を投じる「エネルギー効率」の追求
現在、サーバー用CPU市場はIntel XeonやAMD EPYCといったx86系プロセッサが支配し、AIワークロードはNVIDIAを中心とするGPUクラスタが牽引しています。しかし、従来のサーバー構成ではTDP(熱設計電力)の高騰が著しく、データセンター全体の電力インフラやPUE(電力使用効率)を悪化させる要因となっています(参照:グリーンクラウドとデジタルサステナビリティ)。
MONAKAは、競合する既存プロセッサに対して「電力効率(電力あたりの性能)2倍」をターゲットに掲げています。消費電力を抑えつつ高密度な並列処理を可能にすることで、運用コスト(TCO)の削減とデータセンターの脱炭素化を同時に達成します。
MONAKAを支える最先端アーキテクチャと革新技術

| 主要スペック / 項目 | MONAKAの仕様・特徴 | 実現するメリット・優位性 |
|---|---|---|
| プロセスノード | 最先端 2nm GAAFET | 微細化による超低消費電力・高クロック動作 |
| CPUコア数 | 144コア(Armv9-Aアーキテクチャ) | クラウドマルチテナント環境での超並列スケーラビリティ |
| パッケージング | 3Dチップレット実装(SRAM/IO積層) | コスト最適化、歩留まり向上、超高帯域低遅延インターコネクト |
| 冷却方式 | 標準空冷対応(Air Cooling) | 特殊な液冷設備投資が不要、既存データセンターへ即時導入可能 |
| 拡張インターフェース | PCIe 6.0 / CXL 3.0 | メモリプーリング対応、超高速アクセラレータ・ストレージ連携 |
| ベクトル・AI演算 | Arm SVE2(低精度 FP8/INT8対応) | GPU不要でCPU単体による高効率AI推論を実現 |
最先端「2nm GAAFETプロセス」と「3Dチップレット実装」
MONAKAの製造には、従来のFinFET構造を超越した2nm世代のGAAFET(Gate-All-Around FET)技術が採用されます。微細なチャネル制御によりリーク電流を極限まで低減し、省電力性能を飛躍的に高めています。
さらに、モノリシック(単一シリコン)ダイでの巨大化を避け、複数のコンピュートダイやI/Oダイを垂直・水平に高密度結合する「3Dチップレット実装」を導入。144コアという超多コア構成を実現しながら、製造歩留まりの改善と柔軟なモジュール構成を両立しています。
特別な液冷を不要にする「空冷対応」と高密度実装のメリット
近年の超ハイエンドGPUやサーバーCPUは、1基あたり500W〜1000Wを超える熱を発するため、導入には高額な液冷(水冷・浸漬冷却)ラック設備の改修が必須となりつつあります。
これに対し、MONAKAは設計当初から「既存の標準的な空冷データセンターラックで運用可能」であることを前提に開発されています。高価な液冷設備投資を行わずに、既存のサーバルームにそのまま高密度実装できるため、インフラ刷新のハードルを大幅に下げることが可能です。
次世代インターコネクト「PCIe 6.0」および「CXL 3.0」のサポート
MONAKAは、次世代高速バス規格であるPCIe 6.0およびメモリ共有規格CXL 3.0(Compute Express Link)にフル対応します。
CXL 3.0の導入により、複数のCPU間で外部メモリモジュールをプール化して柔軟に割り当てる「メモリディスアグリゲーション(メモリプーリング)」が可能となり、メモリ不足によるボトルネックを解消しながら大規模データベースやAIパイプラインの処理効率を最大化します。
AI推論とクラウドインフラでMONAKAが発揮する圧倒的強み
Arm SVE2と低精度演算(FP8/INT8)によるCPUベースのAI推論高速化
AIモデルの実用化が進む現在、ワークロードの主流は「学習」から「推論」へと急速に移行しています。しかし、すべての推論処理に高価なGPUを割り当てることは、設備投資(CAPEX)および電気代(OPEX)の面で非現実的です。
MONAKAは、Armの拡張命令セットであるSVE2(Scalable Vector Extension 2)を標準搭載し、生成AIの推論で多用されるFP8(8ビット浮動小数点数)やINT8(8ビット整数)などの低精度演算をネイティブに高速実行します。これにより、GPUを増設することなく、CPU単体で高速かつ低遅延なLLM推論や画像認識サービスを提供できます。
コンフィデンシャル・コンピューティングによる強固なデータ主権とセキュリティ
金融機関や行政機関、医療機関がクラウドやAIを活用する上で不可欠となるのが、機密データの漏洩防止です。
MONAKAは、ハードウェアレベルでメモリ領域を暗号化・隔離するArm CCA(Confidential Compute Architecture)をサポートしています。ハイパーバイザーやクラウド事業者自身からもデータが閲覧できないセキュアエンクレーブを構築できるため、機密情報を安全に保護しながらマルチテナント環境でAI処理を実行可能です。
日本の「ソブリンAI(主権AI)」とシリコン復活を拓く戦略的意義
国内では、経産省・NEDO主導で国産マルチモーダル基盤モデルを開発するFRONTia(フロンティア)プロジェクトなど、AIの主権(ソブリンAI)を確立する動きが加速しています。
しかし、基盤モデルが国産であっても、それを動かすハードウェアが海外製チップに100%依存していては、地政学的リスクやサプライチェーン断絶への耐性は確保できません。
富士通のMONAKAは、世界標準のオープンエコシステム(Linux、Kubernetes、CNCF、PyTorch/TensorFlow等のOSSフレームワーク)と完全な互換性を維持しながら、日本発の最先端シリコンとして国内外のデータセンター基盤を支える役割を担います。
まとめ:2027年の実用化に向けて加速する富士通のロードマップ
富士通は、2027年頃のMONAKA商用投入を目指し、国内外のパートナー企業やクラウドプロバイダーとのソフトウェアエコシステム構築を急ピッチで進めています。
「富岳」で培った世界最高水準のマイクロアーキテクチャ、2nm GAAFETと3Dチップレットによる最先端実装、そして空冷で動く圧倒的な電力性能比――。FUJITSU-MONAKAは、世界のデータセンターが直面するエネルギー危機を救い、持続可能なAI社会を支える次世代のスタンダードとなる可能性を秘めています。
よくある質問
FUJITSU-MONAKAの発売・実用化時期はいつ頃ですか?
富士通の公式ロードマップによると、2027年の商用出荷・データセンター本格投入を目指して開発が進められています。NEDOの「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」の一環として開発が行われています。
なぜAI処理においてGPUではなくCPUのMONAKAが注目されているのですか?
AIモデルの学習には大規模GPUが必要ですが、日常的な「推論(Inference)」処理ではGPUの消費電力や導入費用、メモリ帯域の制約が課題になります。MONAKAはArm SVE2やFP8/INT8低精度演算を内蔵し、標準的な空冷で高効率に動作するため、TCO(総所有コスト)と消費電力を劇的に削減しながらAI推論を実行できるからです。
既存のデータセンター設備にそのまま導入できますか?
はい。MONAKAの大きな強みの一つは「標準的な空冷設備」で動作するように設計されている点です。超高発熱GPUのように特殊な液冷(水冷)設備への大規模改修を必要とせず、既存のデータセンターラックにそのまま高密度実装が可能です。
